『インセプション』
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2011/07/20
- メディア: Blu-ray
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見たのはちょっと前なんですが、なんつーて書いていいのかよくわかんなくて伸び伸びだったんですが、とりあえず初見の印象など。(細かいとこまで作りこみがすさまじいので、そのへんはDVD出てからかな…)。
映画としては文句なくウェルメイドな作品であり、アルフレッド・シュッツの多元的現実論で修論書いたくらいなので大好物なテーマなんですが、うーん…
人がなんで「この現実とは違う現実」を夢に見、現実間のくねりにくねった関係性を描写するような作品を作ってしまうのかちゅうのは、昔っから気になりつつ、どうにも答えが出ない話なんですけど、なんなんですかね。たぶん問いの立て方が間違っているんでしょうけど。
荘子の「胡蝶の夢」とかプラトンの洞窟とか文字文化のしょっぱなからあるので結構ながーいこと人類の文化のあちゃこちゃに絡まってはいるんですが、やっぱりですね、20世紀後半になってから本格的に展開されてきたんではないかと思います。P・K・ディックだったりバロウズだったり押井だったりギリアムだったり色んな人がやってるわけで、ディックやバロウズはドラッグ文化の影響大きいですけど、社会的背景を求めるなら、まず出てくるのは多様なメディアの発達かなーですよね。没入>リアルに戻るて往還を日常的にあちゃこちゃでやらなきゃいけなくなるわけで。他にもいろいろありそうですけど。フロイト精神分析で「夢」の扱いが変わったとか。
もしそっから考えると、20世紀と21世紀と比べると、まだ最初の10年とはいえ、前世紀と比べてもメディア環境大爆発すぎてあうあうなわけで、ある意味20世紀的な、リアルと非―リアルの対比出して「現実」を相対化しまくる図式とか、ちょっともう…だるいんじゃないかな?感があります。基本、現実より半歩先いって現実を批評するもんでないと面白いものにならない思うんですが、現実の相対化一本槍で行っていると、下手すると「いやそれ…当たり前すぎてもう誰も言及しないことなんじゃね?」ということにもなりかねない。
『サマーウォーズ』は仮想空間「OZ」を扱いながら、ありがちな仮想vs.現実という図式にせずに、リアルの人間関係がOZによって媒介されることでより太くなってたり、OZで媒介されたユーザー間の共同性をメインにもってきてるという方向で評価してたりです。いくらなんでもあんなセキュリティシステムは勘弁ですが。
『インセプション』も安直な「現実」の相対化ではなくて、「現実」に還ってくる話ではあるんですが、なぜそこが自分が還らなければならないのかてところがもうちょっとなんかほしかったかなー。
『インセプション』がすんごいよくできた、幾重にも入れ子になっている箱根細工だとしたら、自分が本当に見たいのは、その箱根細工をぶん投げてこの図式を壊す瞬間かもです。
ノーランはまだ映画監督としては若い人なんで、いつか完膚なきまでに「この図式の先」を見せてくれる作品をやってくれると嬉しい気持ち。